介護の現場で語られる「におい」は、これまで多くの場合、消すべきもの、管理すべきものとして扱われてきました。けれど本当にそれだけなのでしょうか。
【介護の呼吸OS研究会】では、においを単なる不快要素ではなく、心と体の状態を知らせる静かなサインとして捉え直します。
人は不安や緊張を抱えると、知らず知らずのうちに呼吸が浅くなります。呼吸が浅くなると、体の巡りは滞り、その淀みがわずかな変化として現れます。それが「におい」として感じ取られることもあるのです。においは結果であり、原因ではありません。だからこそ、上から消臭や香りで覆うのではなく、その奥にある呼吸の乱れに目を向ける必要があります。
この考え方は、衛生管理や作業効率の話にとどまりません。呼吸にそっと寄り添うことは、その人の内側に起きている不安や緊張を尊重することにつながります。
尊厳とは、声高に守られるものではなく、自分の心と体の声に静かに耳を傾けられる状態のこと。においという小さなサインを見過ごさず、浅くなった呼吸に気づくことは、その人らしさを守る行為そのものです。
私たちは、空間を整える前に、そこを流れる時間と呼吸を整えたいと考えています。朝、窓を開けて風を通すこと。歩く速度を少し緩め、声のトーンを落とすこと。その一つひとつが場の呼吸を整え、安心と尊厳を育てていきます。
においを消すのではなく、呼吸に戻る。
その積み重ねが、介護の現場に静かな信頼と、人としての尊厳を取り戻していくと、私たちは信じています。


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