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【尊厳Well-Kaigo】帰宅願望の謎

【多言語ブログ/末尾に中国語、タイ語、英語の翻訳文を挿入しております】
【多语言博客/文末附有中文、泰文和英文翻译内容】
【บล็อกหลายภาษา/มีคำแปลภาษาจีน ภาษาไทย และภาษาอังกฤษอยู่ท้ายบทความ】
【Multilingual Blog / Translations in Chinese, Thai, and English are included at the end of the article】


今回のテーマは「帰宅願望の謎」についてです。認知症高齢者にしばしば見られるBPSD(行動・心理症状)の中でも、特に多くの現場で課題となるのが「帰宅願望」です。施設に入所している方はもちろん、自宅に暮らしている方でさえ「家に帰りたい」と訴えることがあり、介護の現場では日常的に直面する症状のひとつです。

秋の気配を感じながら、鳥やトンボが舞う朝。そんな自然の風景に「帰る場所」を本能的に求める動物の姿を重ね合わせると、人間にとっての「帰宅願望」もまた根源的な欲求であることが浮かび上がってきます。
では、なぜ認知症の方にこのような行動が現れるのでしょうか。そして、私たちはどう向き合えばよいのでしょうか。

帰宅願望が起きる背景

帰宅願望の根底には、中核症状である「記憶障害」や「見当識障害」があります。短期記憶が保持できず、今いる場所や時間がわからなくなる。その結果、「ここは自分の居場所ではない」と感じ、不安や混乱が高まります。

さらに、夕方に強く帰宅願望が出る傾向があります。これは、学校や仕事から「家に帰る」習慣を長年繰り返してきた生活リズムが体に染みついているためです。施設やデイサービスで「夕方になると帰りたい」と訴えるのは、ごく自然な行動とも言えます。

リロケーションダメージとは?
施設入所や息子の家への同居など、住環境の大きな変化は「リロケーションダメージ(環境変化による心理的ダメージ)」を引き起こします。自分の家ではない場所にいると、安心感が得られず「帰りたい」という思いが強まります。

たとえば、息子の家で暮らす母親が「ここは旅館ですか?」「料金はいくらですか?」と尋ねるケースもあります。環境の違和感が、不安や混乱を生み出し、それが帰宅願望へとつながっていくのです。

不適切な対応が引き起こす悪循環
帰宅願望を否定したり、強引に説得しようとすると、かえって不安が増し、暴言や暴力、徘徊や物の破壊といった二次的な行動へ発展することがあります。

介護者が「ここにいなければ困ります」と言ってしまうと、高齢者は「否定された」と感じ、抵抗行動に至るのです。その結果、「この人は暴力的」「問題行動がある」とレッテルを貼られてしまうこともあります。しかし実際には、不安の裏返しにすぎないのです。

帰宅願望への寄り添い方
対応の基本は「否定しない」「共感する」ことです。

「帰りたいんですね」「わかりました、明日一緒に帰りましょう」といった言葉がけで安心を与えることができます。そして、話題を写真や思い出話、歌などに展開することで、気持ちを落ち着ける工夫が可能です。

場合によっては、一緒に実際の家まで行くこともあります。その際に「ここが私の家だ」と安心する方もいれば、「ここじゃない」と気づく方もいます。つまり、「帰宅願望」の対象となる「家」は、必ずしも現在の住まいではなく、子ども時代や結婚当初の家など、記憶の中の場所であることも多いのです。

帰宅願望が教えてくれること
私たちが学んできたのは、帰宅願望は単なる「問題行動」ではなく、その人の記憶や生活史が色濃く反映されたサインであるということです。

「帰りたい」という思いには、家族や大切な人との暮らし、家庭を守る責任感、生活への不安といった多くの要素が込められています。その背景を理解することで、より良いケアの方法を見出すことができるのです。

事例検討の重要性
帰宅願望への対応は一つの正解があるわけではありません。同じ方でも日によって反応は変わります。体調や天候、気分などによっても左右されるからです。

だからこそ、現場での事例を共有し、ディスカッションを重ねることが大切です。ある日うまくいった方法が翌日は通じないこともありますが、その積み重ねが介護者の知恵や技術となり、個別対応の幅を広げていきます。

教育と共感の場として
私自身も、日本で積み上げてきた尊厳介護の知見を整理し、中国をはじめとする海外の現場に伝える取り組みを進めています。介護従事者が実際に演じ、事例を共有し、互いに学び合う。そこに「教育」と「共感」が生まれます。

帰宅願望の理解と対応をテーマにしたプログラムや動画制作も進めていますが、現場の人々が自ら工夫し、提案を加えながら形にしていく姿には大きな感動を覚えます。

これから、ここから
これからの介護現場において大切なのは、帰宅願望を「困った行動」として片付けるのではなく、その背景にある記憶や感情に寄り添うことです。

帰りたい場所、帰りたい時代、帰りたい人──それはその人の「尊厳」が示すサインでもあります。そのサインを受け止め、環境を整え、安心を積み重ねていくことが、尊厳介護の実践につながります。

私たちは、帰宅願望を通じて「人が生きてきた証」に触れることができます。そこから学び、支え合うことで、新しいケアの形が見えてくるはずです。

介護は試行錯誤の連続ですが、共感と工夫を重ねることで必ず前進していきます。これから、ここから。尊厳介護の実践を一緒に築いていきましょう。

ご質問は本サイトの「お問い合わせ欄」からお気軽にお寄せください。

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