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【尊厳Well-Kaigo】必ず行動には理由がある


― 心理学的アプローチから見る認知症介護 ―

朝の風景とともに
おはようございます。利久です。
今日も「ウエルエイジング・アワー」のウォーキングラジオをお届けします。
今朝の東京・隅田川は曇り空。風はなく、やや肌寒い季節の変わり目を感じます。半袖では少し冷えるようになりました。歩きながら鳥の声を聞き、草の変化を眺めると、自然の循環を肌で感じます。こうした小さな刺激が、私たちの脳にとって良い活性化になるのだと実感します。

行動には必ず理由がある


さて、今日のテーマは「必ず行動には理由がある」です。
現在、私は介護教育の教材を作成しており、認知症介護のあり方を心理学の視点から整理しています。現場で起きる“行動”には、必ずその人なりの理由がある。これは認知症ケアの中核的な考え方です。

BPSD(行動・心理症状)と呼ばれる周辺症状も、単なる「問題行動」ではなく、本人の困りごとや不安、環境要因から生じるメッセージなのです。中国などで講義を行うと「どうすれば行動を止められるのか?」という“答え”を求められることが多いのですが、私は“答えを導く方法”を学ぶことこそが本質だと考えています。

心理学的なアプローチの重要性
認知症介護は、単に技術や知識だけで対応できるものではありません。
本人の心理を理解し、支援者自身の心の状態を整えることが欠かせないのです。ここで役立つのが「認知行動心理学」の考え方です。特に「ABCモデル」という枠組みが、現場理解に大きなヒントを与えてくれます。

ABCモデルとは
Aは「Antecedent(前後関係)」、Bは「Behavior(行動)」、Cは「Consequence(結果)」を表します。
このモデルでは、「どのような前提条件(A)があって」「どのような行動(B)が起こり」「どんな結果(C)を生むのか」という因果関係を整理します。

介護現場でも、この視点を持つことで多くの気づきが生まれます。
たとえば、ある高齢者が突然怒り出したとき、私たちは「なぜ怒ったのか」という“結果”ではなく、“その前に何があったのか”を見ていくのです。環境の変化、声のかけ方、照明や音、匂いなど、さまざまな要素が影響しているかもしれません。

この「前後関係」に注目することで、行動の意味が見えてきます。そして、その理解が介護職員自身の行動を変え、結果的に本人の行動も穏やかに変化していくのです。

メタ思考とメタ認知の視点
ここで、もう一つ大切なのが「メタ思考」と「メタ認知」という概念です。
メタ思考とは、物事を俯瞰して見る力のことです。つまり、「なぜこの人はこういう行動をするのだろう?」と、一歩引いた視点で全体を見渡す力です。

一方でメタ認知とは、自分の内面を客観的に見つめる力です。
「私は今、焦っていないか」「怒っていないか」「不安を感じていないか」といった自己理解です。支援者自身の感情を整えることが、良いケアの第一歩になります。

これらを実践的に活用する際に、ABCモデルが大きな助けとなります。前後関係を俯瞰的に捉え、自分の感情を意識しながら行動を変えてみる。すると、本人の反応や場の空気も変わっていくのです。

3つの視点で見る ― 本人・支援者・環境
私はこれをさらに実践的に整理するため、「三点視点」として次の3要素を提案しています。

受援者(本人)
 その人はどんな背景や思いを持っているのか?
支援者(介護者)
 自分の言葉や態度が相手にどう影響しているか?
環境(音・光・温度・空気・人間関係)
 環境が落ち着かない状態を作っていないか?
この3つのうち、どれか一つを変えるだけで行動全体が変化することも多いのです。
相手を変えるのではなく、「自分と環境を変えてみる」。それが最も実現しやすく、尊厳を守るケアの基本になります。

たとえば、笑顔で接してみる。深呼吸を2回して心を整える。室温や照明を少し調整してみる。
こうした小さな変化が、BPSDの緩和につながっていくのです。

チームで共有することの大切さ
個人の努力だけでなく、チーム全体でこの視点を共有することも重要です。
どんなに一人の介護士が良い対応をしても、他の職員が同じ理解を持っていなければ、高齢者の生活は安定しません。
だからこそ、チームとして“仕組み”に落とし込む必要があります。

尊厳ある介護とは、個人の技術ではなく「チームプレイの文化」です。
多職種連携でお互いの視点を共有し、誰が対応しても同じように安心できる環境を作る。これが「尊厳Well-Kaigo」の目指す姿です。

科学と実践をつなぐ ― 尊厳介護のシステム化へ
私が今取り組んでいるのは、この心理学的アプローチを尊厳介護の「システム」として確立することです。
ドーパミン、セロトニン、オキシトシンという三大神経伝達物質を軸にした「DSO理論」と、認知行動心理学のABCモデルを融合させ、科学と実践の両面から介護を再構築しようとしています。

教育の現場では、ビフォー・アフターの事例を用いながら、支援者がどう変化したかを検証しています。
感覚的なケアから、エビデンスに基づいたケアへ。そして、それを誰でも再現できる仕組みとしてチーム全体に共有する――。
その流れこそが「尊厳Well-Kaigoシステム」の核心だと考えています。

これから、ここから
「必ず行動には理由がある」。
それは認知症の人だけでなく、私たち自身にも当てはまる言葉です。
怒り、悲しみ、不安――それらの感情にも理由があります。
相手の行動を責める前に、一度俯瞰してみる。そして、自分の心と環境を整える。
その積み重ねが、尊厳を守る介護を形づくっていくのです。

ご質問は本サイトの「お問い合わせ欄」からお気軽にお寄せください。

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