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【尊厳Well-Kaigo】なぜ老人ホームに入居したくないのか

【多言語ブログ/末尾に中国語、タイ語、英語の翻訳文を挿入しております】
【多语言博客/文末附有中文、泰文和英文翻译内容】
【บล็อกหลายภาษา/มีคำแปลภาษาจีน ภาษาไทย และภาษาอังกฤษอยู่ท้ายบทความ】
【Multilingual Blog / Translations in Chinese, Thai, and English are included at the end of the article】


― 家族・プライド・自由の狭間で揺れる「老後の選択」 ―

おはようございます。利久です。
今朝のウォーキングラジオでは「なぜ老人ホームに入居したくないのか」という、少し重いけれど誰もが避けて通れないテーマを考えてみたいと思います。

老人ホームと一口に言っても、いろいろあります
「老人ホーム」と言っても、実は多様な形があります。
特別養護老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、そしてサービス付き高齢者向け住宅など、制度も目的もさまざまです。

今回はその中でも「介護が必要になった時に入居する介護型老人ホーム」、つまり特別養護老人ホームなどを前提にお話をしてみます。

「入りたくない」「入れたくない」という気持ちの根っこ


日本だけでなく、中国でも「老人ホームに入りたくない」という声がよく聞かれます。中国の老人ホームは稼働率が50%程度とも言われ、その背景には本人の抵抗と家族のプライドがあります。
「親を施設に預けるのは冷たい」「自宅で看るのが当然」――そんな考えがまだ根強いのです。

これは日本も同じでした。介護保険制度が始まる前、そして始まったばかりのころ、老人ホームに親を入れることは“恥ずかしいこと”だと感じる人も少なくありませんでした。

「こんな施設に親を入れたのか」と言われたくない
私がかつて施設長を務めていた頃、ご家族からこんなお願いを受けたことがあります。
「他の人に聞かれたら、“病院に入院している”と説明してください」と。
つまり、「老人ホームに入れた」と思われたくなかったのです。

病院であれば「治療のため」という前向きな理由がありますが、老人ホームは「人生の終わりを迎える場所」と見られがちでした。
そして入居する高齢者自身も、「こんな施設に自分が入るのか」という悲しみや不安を抱えていたのです。

「こんなところしか働く場所がない」では変わらない
一方で、働く職員もまた同じ構造の中にいました。
「こんなところでしか働けない」と感じてしまえば、良い介護は生まれません。
ですから、私はずっと「介護の価値を変える」「施設の価値を高める」活動を続けてきました。

いまでも「在宅で頑張りたいけれど、もう限界かもしれない」という声は多いです。
医療と介護が連携し、病院から在宅、そして介護施設へとシームレスに支える仕組みが不可欠です。

医療と介護の“間”にあるもの
病院は「治す場所」、介護施設は「暮らしを支える場所」。
この“間”を埋めるために、日本は20年以上かけて在宅介護サービスや高齢者住宅の整備を進めてきました。
しかし、サービス付き高齢者向け住宅は「安否確認」と「生活相談」までで、介護サービス自体は別契約です。制度上の仕切りがある以上、どうしても“安心して任せられる場所”というイメージにはなりにくい面があります。

老人ホームの価値を上げるという挑戦
老人ホームが「役割のない」「汚い」「我慢の場所」という印象のままでは、誰も選びません。
“人生を締めくくる最後の居場所”としてふさわしい環境でなければならないのです。

日本では、個室化や生活リハビリ、地域交流などの工夫を重ね、少しずつ「入りたい施設」「家族が安心できる場所」へと変わってきました。
それでも「入居したくない」という気持ちは簡単には消えません。

「入りたくない」から「ここならいい」に変えるために
私は施設を否定する立場ではありません。むしろ、「選ばれる施設」「必要とされるサービス」をつくる立場にあります。
そのためには、入居者・家族・職員の三者がそれぞれの尊厳を保てる環境が必要です。

入居者は「自分らしく暮らせる」こと。
家族は「安心して任せられる」こと。
職員は「誇りを持って働ける」こと。
この三つが揃ってこそ、老人ホームは“終のすみか”から“生きる場所”へと変わります。

地域で生きるという選択
もう一つ、大切なのは“地域”です。
「こんな地域では暮らしたくない」ではなく、「この街なら老いても幸せに暮らせる」。
そんな地域づくりが求められています。

日本では「地域包括ケアシステム」という仕組みが進められています。
在宅介護や通所サービス、訪問看護、地域の医療機関が連携して、高齢者が自宅や近所で生活を続けられるよう支えるものです。

中国の「9073方式」との共通点
中国にも「9073方式」と呼ばれる考え方があります。
90%の高齢者が自宅で暮らし、7%が地域(コミュニティ)で支え合い、3%が介護施設で生活する――というものです。

日本の施設入居率は約6%ですが、中国では施設数は多くても稼働率が低い。
つまり、「施設があっても、そこに行きたくない」という構造があるわけです。

在宅を支える地域インフラが整えば、介護施設の数を増やす必要はありません。
むしろ、地域の中に小規模な支援拠点をつくり、暮らしを支える仕組みを整える方が持続的です。

郊外から「まちなか」へ戻る介護の歴史
日本もかつては「郊外型」でした。
土地が安い場所に大規模施設を建て、家族と離れて暮らす――。
高度経済成長期には、動けなくなった高齢者が“邪魔者”のように扱われた悲しい時代もありました。

しかし今では、「まちなか」に施設が戻ってきました。
買い物もできる、散歩もできる、人の声が聞こえる場所に施設を建て、地域と共に生きる介護へと変わってきたのです。

老人ホームに入りたくない理由の奥にある“文化”
「老人ホームに入りたくない」という言葉の裏には、文化と価値観の違いがあります。
家族の絆を大切にする国ほど、施設への抵抗は強くなります。
だからこそ、日本のように「施設=終わり」ではなく、「施設=もう一つの我が家」という発想を広めることが大切です。

そしてそれを実現するのは、制度ではなく人の心です。
介護を“支える仕事”から、“生きる力を引き出す仕事”へ――。
この転換こそが、尊厳ある介護(Well-Kaigo)の核心なのです。

これから、ここから
「老人ホームに入りたくない」という声は、否定ではなく願いの表れです。
「できる限り自分らしく生きたい」「家族とつながっていたい」――
その思いに応える介護、そして地域づくりが、これからの時代の使命です。

日本が歩んできた経験を、これから高齢社会を迎える国々へ。
尊厳を中心にした介護の文化を共に育てていきたいと思います。

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