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【尊厳Well-Kaigo】マズローの欲求階層説に合わせる介護

【多言語ブログ/末尾に中国語、タイ語、英語の翻訳文を挿入しております】
【多语言博客/文末附有中文、泰文和英文翻译内容】
【บล็อกหลายภาษา/มีคำแปลภาษาจีน ภาษาไทย และภาษาอังกฤษอยู่ท้ายบทความ】
【Multilingual Blog / Translations in Chinese, Thai, and English are included at the end of the article】


―「満たす介護」から「引き出す介護」へ―

こんにちは、利久です。
今日のテーマは「マズローの欲求階層説に合わせる介護」です。

東京・隅田川の朝は曇り空。風は弱くても水面は静かに揺れ、秋の気配が深まっています。そんな中で、「人の欲求」と「介護の本質」について改めて考えてみました。

■ マズローの五段階欲求を介護に置き換える
アメリカの心理学者マズローは、人間の欲求を五段階に整理しました。

生理的欲求(呼吸・睡眠・排泄・食事)
安全欲求(安心して暮らしたい)
社会的欲求(人と関わりたい)
承認欲求(認められたい)
自己実現欲求(自分らしく生きたい)


介護の現場を見渡すと、この階層がそのまま「支援の段階」に重なって見えます。
初期段階では「生理的欲求」を整えることが第一歩です。呼吸が苦しい、排泄が難しい、食欲がない、眠れない――そんな“生きるための基盤”を支えるのが介護の出発点です。

■ 生理的欲求を整える ―「生きる」支援の基礎
介護が始まる時、人は多くの場合「できていたことができなくなる」現実に直面します。
これは、キューブラー=ロスの「喪失の受容過程」でいう“否認”や“怒り”の段階に似ています。

「自分が老いるなんて信じられない」
「こんな体になりたくなかった」

そんな気持ちを抱えながらも、日常生活の中で少しずつ支援が必要になります。
排泄の介助、食事の介助、睡眠のサポート――ここを丁寧に整えることが介護の原点です。
この段階が安定すると、自然と「安全に暮らしたい」「もっと快適に」という次の欲求が芽生えてきます。

■ 安全から社会へ ―「暮らし」を取り戻す支援
数日から数週間で身体のリズムが整い、安心できる生活環境ができると、人の意識は「次の段階」に上がります。
「もっと安心したい」から「誰かと関わりたい」へ。

ここで重要になるのが社会的欲求です。
介護施設や在宅生活でも、人と会話する、外出する、趣味を再開する――そんな関わりが生きるエネルギーを引き出します。

しかし、介護側がいつまでも「食べさせる」「おむつを替える」だけの支援に留まってしまうと、ご本人の欲求とのズレが生じます。
最初は感謝してくれていた方が、次第に不満や怒りを見せるようになるのは、その欲求段階が上がっているからなのです。

■ 承認と自己実現 ―「尊厳」を支える介護へ
人が求めるのは単なる生活の維持ではありません。
「自分らしく生きたい」という承認と自己実現の段階にこそ、尊厳介護(Well-Kaigo)の核心があります。

食べること、動くことが難しくなっても、「どう生きたいか」「どんな最期を迎えたいか」という意思を尊重する。
それが“見取り介護”の本質であり、尊厳介護の到達点です。

私は、この最終段階を「自己実現の介護」と呼んでいます。
「死を待つ介護」ではなく、「生き切る介護」。
その人の人生の物語を最期まで支え抜くことが、介護者の使命だと思います。

■ 介護教育と欲求段階の関係
マズローの階層は、介護職の成長段階にも重なります。
初任者研修 → 実務者研修 → 介護福祉士 → ケアマネージャー → 管理者・リーダー。
学びと経験を重ねるごとに、「生理的支援」から「社会的支援」「自己実現の支援」へと関心が広がっていきます。

やがて地域包括ケアやソーシャルワークへと発展し、地域を支える存在へと成長していく。
まさに、マズローの欲求段階と同じように、“介護者自身も成長する構造”になっているのです。

■ 地域づくりにも生かせる「欲求階層」
介護だけでなく、まちづくりもこの理論で見直すことができます。
安心して呼吸できる街、トイレが使いやすい街、外出しやすい街――これはすべて「生理的・安全欲求」の支援。
地域サロンやボランティア活動は「社会的欲求」。
高齢者が地域で講師や支援者として活躍するのは「承認・自己実現」の段階です。

こうして見ると、介護も地域も“人の欲求を満たす仕組み”として一貫しており、どの層にアプローチするかで支援の形が変わるのだと分かります。

■ 「Well-Aging」から「Well-Kaigo」へ
日本ウエルエージング協会では、「Well-Aging(尊厳ある老い)」から「Well-Kaigo(尊厳ある介護)」、そして「Well-Life(尊厳ある暮らし)」へという流れを提唱しています。

“Well”とは、単なる「健康」ではなく、「尊厳」「存在の質」を意味します。
欧米で使われる“ウエルビーイング(Well-Being)”も同様に、「あなたらしく生きること」を指しています。

介護を通じてこの概念を実現するためには、教育・相談・支援という三つの柱が欠かせません。
まず学び、次に相談し、最後に実践する。
このプロセスが、人の欲求段階を上へと導く力になります。

■ 尊厳介護の未来 ― DSO理論との融合へ
私が提唱しているDSO理論(ドーパミン・セロトニン・オキシトシン)は、マズロー理論を“脳科学”の側面から補完するものです。
ドーパミンは「達成感」、セロトニンは「安定感」、オキシトシンは「つながり」を司ります。
これらを介護現場に取り入れることで、「人が生きる喜び」を科学的に引き出すことができます。

そして、利用者一人ひとりの物語を尊重し、「語想法(ごそうほう)」=“語りながら想う”という手法で、その人の人生を再構成していく。
それが、AI時代における尊厳介護の教育システムの新しい形になると考えています。

■ これから、ここから ― 尊厳を軸にした国際介護へ
日本が築いてきた尊厳介護の哲学を、これからアジアの国々へ伝えていくことが、私の使命だと感じています。
高齢化率14%を超える国々(中国、タイなど)は、まさに次のステージへ進もうとしています。

「マズローの欲求階層説」と「尊厳介護」を結びつけることで、
人が“生かされる”のではなく、“生きる力を取り戻す”社会を共につくっていきたい。

それが、Well-Kaigoの本質であり、国を超えて共有できる「人間の尊厳」の教育だと信じています。

ご質問は本サイトの「お問い合わせ欄」からお気軽にお寄せください。

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