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【尊厳Well-Kaigo】怒る家族へ

【多言語ブログ/末尾に中国語、タイ語、英語の翻訳文を挿入しております】
【多语言博客/文末附有中文、泰文和英文翻译内容】
【บล็อกหลายภาษา/มีคำแปลภาษาจีน ภาษาไทย และภาษาอังกฤษอยู่ท้ายบทความ】
【Multilingual Blog / Translations in Chinese, Thai, and English are included at the end of the article】


― 介護の現場で生まれる「怒り」をどう受け止めるか ―

秋の隅田川から考える「怒る家族」
おはようございます。利久です。
今日の「ウエルエイジング・アワー」ウォーキングラジオでは、「怒る家族へ」というテーマでお話しします。

今朝の隅田川は、青空が広がり、太陽の光がやさしく差し込む穏やかな秋の朝でした。風はほとんどなく、静かな空気の中を歩きながら、ふと考えました。

介護の現場で、なぜ家族は怒るのだろう――。


親の老いを受け止め、認知症という現実に直面するなかで、家族はさまざまな「困りごと」に出会います。その困りごとが解決されず積み重なっていくと、心の中に「怒り」という感情が芽生えます。

怒りの矛先は、親に向かうこともあれば、介護職員や施設に向かうこともあります。
しかし実は、その怒りの多くは「自分自身」への苛立ちから生まれています。思うように支えられない自分への責め、無力感、悲しみ。それがやがて怒りへと変わり、時には虐待や家庭内の対立、家族関係の崩壊にまでつながってしまうこともあります。

「怒り」を防ぐには、情報と感情の共有から
私が特別養護老人ホームの施設長だった頃、行政主催の施設長会議では「苦情が多い施設」と「少ない施設」の差が話題になりました。
当時、私はこう考えていました。――「契約書を変えても苦情は減らない」。
契約はルールを示すものに過ぎず、感情を癒やす力はありません。怒りを和らげるのは、書類ではなく「信頼関係」なのです。

私の施設では、家族との共同運営を基本にしていました。
情報を共有し、勉強会を重ね、家族と職員が「セカンドファミリー」として支え合う。介護保険制度のもとで、私たちは“家族の代わり”を務めますが、それは「第一の家族」との連携があってこそ成立するものです。本人の心模様を共有し、同じ目標をもってケアを進める。その積み重ねが、家族の怒りを未然に防ぐ最大の方法だと実感しました。

怒りの背景にある「不安」と「責任感」
家族が怒る理由の根底には、「親を守れない自分」への悔しさがあります。
病気が進行し、介護が重くなり、食事が取れなくなる――。
その変化を前に、誰もが「なぜこんなことになったのか」「自分のせいではないか」と苦しみます。

しかし老いは、人生の自然な流れです。親が人生の終末期を迎えるとき、私たちにできるのは「受け止めること」だけです。
それを拒むと、怒りが増し、誰かを責めたくなる。
でも受け止めることで、人は次の一歩を踏み出せるようになります。

心理学やグリーフケア(悲嘆教育)を学ぶ中で私は知りました。
「怒り」は悲しみの裏返しであり、愛情の証でもあるということを。
だからこそ、怒る家族を責めるのではなく、その感情の奥にある“悲しみ”を理解し、共有していく必要があります。

チームで支える「怒りを超える介護」
介護の現場で最も避けるべきは、「一人で抱え込むこと」です。
怒りや不安を感じたときは、職員や家族同士で話し合い、制度の枠を越えて支え合うことが大切です。

施設でも在宅でも、共通して言えるのは「チームで向き合う」こと。
介護の目標は病気を治すことではなく、状態を受け止め、穏やかに過ごせる時間を増やすことです。
一人で抱える不安を、共有によって分かち合い、信頼関係を築く。
その積み重ねが、家族の怒りを静める唯一の道なのです。

家族の葛藤を理解するために
介護施設に親を預けること自体が、家族にとって大きな葛藤です。
「親を守りきれなかった」「一緒にいられない」という後ろめたさが、怒りとなって表れることもあります。
だからこそ、入居や在宅支援のプロセスでは、家族の心情を理解し、受け止める姿勢が求められます。

日本では、こうした課題を乗り越えるために、介護保険制度が整備されました。
「身体拘束ゼロ」「看取り介護」「尊厳の保持」など、国として理念を示し、教育や実践を積み重ねてきた結果、家族が安心して介護を委ねられる仕組みが少しずつ広がってきています。

海外との比較から見えること
一方で、中国などでは、今も「住み込み介護」の形が多く見られます。
個室に介護者が同居し、生活を共にするスタイルです。
しかし、いくら慣習とはいえ、自室に他人が常にいる状態は、高齢者にとって安心とは限りません。

実際、現地で見学した際、二段ベッドの上に介護者が寝泊まりしている光景を目にしました。
制度の未整備や教育不足もあり、トラブルや苦情が起きやすい状況でした。
日本がこれまで時間をかけて築いてきた「尊厳ある介護」は、そうした課題を克服してきた成果でもあります。

怒りを感謝に変えるために
介護のゴールは、「怒りをなくすこと」ではなく、「怒りを感謝に変えること」です。
看取りのとき、家族が「悲しいけれど、ありがとう」と言葉をかけられる――。
それが、穏やかな別れであり、尊厳のある人生の締めくくりです。

親の穏やかな死に顔を見て
「やりきった」「ありがとう」と感じられたとき、
家族の怒りは癒やされ、感謝へと変わります。

それを支えるのが、教育であり、チームであり、そして“尊厳ある介護”そのものです。
私たちは、その知恵と実践を日本からアジア各国へ伝えていきたいと考えています。

怒る家族を責めるのではなく、
怒りの奥にある悲しみと責任感を理解し、支える。
それが「尊厳介護(Well-Kaigo)」の原点です。

ご質問は本サイトの「お問い合わせ欄」からお気軽にお寄せください。

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