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【尊厳Well-Kaigo】弄便の謎

【多言語ブログ/末尾に中国語、タイ語、英語の翻訳文を挿入しております】
【多语言博客/文末附有中文、泰文和英文翻译内容】
【บล็อกหลายภาษา/มีคำแปลภาษาจีน ภาษาไทย และภาษาอังกฤษอยู่ท้ายบทความ】
【Multilingual Blog / Translations in Chinese, Thai, and English are included at the end of the article】


はじめに
皆さま、こんにちは。利久です。
本日のテーマは、認知症介護の現場でしばしば話題に上る「弄便(ろうべん)の謎」についてです。

弄便とは、排泄された便をいじったり、壁や床に塗りつけたりする行為を指します。さらに重度になると口に入れてしまう「食糞」という形態に至る場合もあります。現場では「不潔行為」と呼ばれることも多く、介護者や家族にとって強い衝撃や困難をもたらす行動のひとつです。

一方で、私自身が長年介護施設で働いてきた経験を振り返ると、この「弄便」が大きな課題として頻繁に取り上げられることは意外に少なかったと感じています。
そこで本日は、なぜ弄便が起きるのか、そしてそれは本当に「認知症だから起こる宿命的な症状」なのかを一緒に考えてみたいと思います。

弄便はなぜ「認知症の困りごと」として語られるのか
介護を学び始めた人や海外の方に認知症介護を紹介するとき、必ずといってよいほど質問に挙がるのが「弄便」や「不潔行為」です。ある意味で「介護の大変さを象徴する行為」として強調されがちです。

しかし現場の実感としては、弄便が長期にわたって続き、施設全体を困らせるようなケースは少なく、多くの場合は一時的に現れて自然に収まっていくことが多いのです。
では、なぜ弄便が「介護の困難の象徴」として語られるのでしょうか。そこには、介護の基本的な環境や方針が大きく関わっていると私は考えています。

弄便の背景にある「排泄介護」の基本
認知症介護を理解するうえで、中核症状と周辺症状(BPSD)を分けて考える視点は欠かせません。弄便はBPSDに分類されますが、突き詰めていくと「排泄介護の基本」が整っていないことが原因である場合が多いのです。

排泄環境:個室にトイレがあるか、共用トイレまで移動できるか。トイレの位置と本人の移動能力は大きく影響します。
おむつの交換方針:定時交換、随時交換、個別対応など、施設のルールによって本人の不快感が変わります。
おむつの目的:もともと尿失禁への対応を前提に設計されており、便への対応は二次的になりやすい。ここにズレが生じると不快感が強まります。
体調と薬の影響:便秘や下痢など消化器系の問題、服薬による副作用も、弄便の引き金になります。
つまり、弄便は単に「認知症だから起きる行動」ではなく、排泄介護や体調管理のあり方によって大きく左右されるのです。

「便を便と認識できない」という視点
もうひとつ大事な要因は、中核症状である記憶障害や見当識障害との関わりです。

例えば、便を排泄したことを忘れてしまったり、便そのものを正しく認識できなくなると、不快感や違和感から手でいじってしまう行為につながります。さらに皮膚トラブルで痒みがあると、それを和らげようとして便に触れることもあります。

このように「認知機能の低下」と「身体の不快感」が重なり合うことで弄便は起きやすくなるのです。

「弄便=認知症の宿命」ではない
私が尊敬していた前理事長は「介護は便で始まり、便で終わる」とよく口にしていました。便秘や下痢のコントロールができていなければ、食事支援も、笑顔を引き出すケアも成立しないという教えです。

つまり、弄便という行為は、介護の基本である排泄コントロールや体調管理が十分にできていないことを示す「バロメーター」なのです。決して認知症の必然的な結果ではありません。

もし施設で頻繁に弄便が見られるなら、それは介護方針や環境を総点検する必要があるという警告サインとも言えます。

在宅介護でも同じ視点を
この視点は施設介護だけでなく、在宅介護にも当てはまります。

在宅で弄便が問題になるとき、家族は「どうしたらやめさせられるか」という発想に傾きがちです。しかし本当に必要なのは、ケアマネジャーや訪問介護士が協力しながら「なぜ起きているのか」を一つ一つひも解くことです。

トイレまで行く動線はどうか
食事や薬は適切か
おむつの交換方法は本人に合っているか
皮膚の違和感や痒みはないか

こうした要素を見直すことで、弄便は自然と減少していきます。

教育と社会のイメージを変える
もうひとつ大切なのは、教育と社会のイメージです。弄便が「認知症介護の象徴」として過剰に語られると、介護そのものにネガティブな印象が広がってしまいます。

私たちが発信すべきは「認知症=必ず弄便が起きる」ではなく、

「弄便は介護の基本を整えることで防げる、または軽減できる行為である」

という事実です。

その認識を広めることが、介護の尊厳を守る第一歩になると考えています。

これから、ここから
弄便は確かに介護現場で大きな困難をもたらす行為です。しかしその背景を探ると、排泄介護・体調管理・環境整備・コミュニケーションなど、介護の基本に深く結びついていることが分かります。

「認知症だから仕方がない」と決めつけるのではなく、「なぜ起きているのか」を丁寧に見直すことで、多くの場合は解決や改善が可能です。弄便は認知症の宿命ではなく、むしろ介護の質を映し出すバロメーターなのです。

これからも尊厳ある介護を実現するために、こうした視点を大切にしていきたいと思います。

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