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【尊厳Well-Kaigo】介護施設づくりは「運営計画」と「建築計画」の両輪で

【多言語ブログ/末尾に中国語、タイ語、英語の翻訳文を挿入しております】
【多语言博客/文末附有中文、泰文和英文翻译内容】
【บล็อกหลายภาษา/มีคำแปลภาษาจีน ภาษาไทย และภาษาอังกฤษอยู่ท้ายบทความ】
【Multilingual Blog / Translations in Chinese, Thai, and English are included at the end of the article】


〜未来を見据えた施設運営のために〜

介護施設づくりの出発点
今回のテーマは「運営計画と建築計画の両輪で考える介護施設の在り方」です。
朝のウォーキングラジオから、介護の現場に携わって35年、改めて「施設をどう作るか」「どう運営するか」という基本に立ち返り、深掘りしてみたいと思います。

海外との対話から見える課題
最近、日本国内で「運営と建築を一体で考える」といった実務的な話題が取り上げられる機会は減ってきています。しかし、今まさに高齢社会を迎えつつある中国やマレーシアなどでは、介護施設の新設が急ピッチで進んでおり、建物から先に話が始まることが多いようです。

その際の中心は不動産デベロッパーや建設会社で、設計図や工事計画が先に動きます。私自身も当初は「土地・建物」から介護の仕事に関わりましたが、建築士でも施工技術者でもなく、事業企画や販売、運営支援の立場として関わってきました。

生活が始まるのは「売った後」
建物を売ったら終わり、ではありません。その建物で人々の生活が始まることが、介護事業の大きな特徴です。住宅販売とは違い、介護や食事、生活支援などのサービスが伴って初めて事業として成立します。

つまり、建築計画とは別に「誰を、どのように雇い、どのようにサービスを提供していくか」という運営計画が不可欠です。そしてそれは、開業前の採用や教育、広報、資金計画までも含めた「全体設計図」になります。

総事業費の中身を見直す
介護施設の開設には、建物代や土地代だけでなく、開業前にかかる人件費や事務所費用、パンフレット印刷費など多様な費用が発生します。これらを含めた総事業費を正しく捉え、それに見合った回収計画(収益設計)を立てなければ、長期的な運営は難しくなります。

特に有料老人ホームでは「終身利用権」を前提に、15年〜18年分の前払い家賃を受け取るスタイルが主流で、その後も追加料金が発生しない「総額保証型」もあります。こうしたモデルでは、30年単位の事業シミュレーションが求められます。

特養と有料老人ホームの違い
特別養護老人ホーム(特養)は、年次予算で運営されるため、30年単位のシミュレーションまでは求められませんが、施設としての運営・設備管理は有料ホームと同様に必要です。

また、減価償却や修繕計画など、長期的視点での建物管理も重要になります。特養の場合は行政からの補助金に頼る傾向が強くありましたが、介護保険導入以降、民間的な会計感覚も求められるようになってきました。

建築計画は「30年後」を見据えて
建物は30年〜40年使われることを前提に設計されますが、設備や人材はもっと短いサイクルで更新されていきます。
たとえば、エアコンや配管などの設備は10〜15年程度での更新が必要ですし、人材は数年単位で入れ替わります。

また、入居者の平均寿命も重要な指標です。30年前の設計では90歳を平均寿命と見込んでいましたが、今では100歳まで生きる人も少なくありません。入居者が長く住み続けることを前提にすると、事業収支に与える影響も大きくなります。

長期修繕計画とストックマネジメント
長期修繕や設備の更新には、毎年一定額を積み立てる必要があります。
例えば、5年後に空調の更新が必要であれば、毎年そのための原資を積み立てておくことが経営の基本です。これが「長期修繕計画」や「積立金計画」として建築計画の中に組み込まれるべき内容です。

どこで電話を受けますか?〜「人」と「サービス」が運営の本質


一方で、運営計画の核心は「人」と「サービス」です。どこで電話を受けるか、ナースコールをどう設置するか、朝の申し送りをどこで行うか、共有スペースの広さはどうするか。
これらの問いはすべて、現場での動線や職員の働きやすさ、サービス提供の質に直結します。

また、ユニットケアや個室ケアへの移行によって、動線や情報共有の在り方も変化しています。情報共有には紙だけでなく、ITやクラウドの活用が進み、建築にも柔軟な対応が求められています。

おむつとトイレ配置が変える介護の風景
入居者の部屋にトイレを設置するかどうか。これ一つで、おむつの使用量や介護職員の動線、収納スペース、在庫管理など、運営全体に大きな影響が出ます。
介護の負担やプライバシーの確保、QOL(生活の質)にも関わる重要な要素です。

計画のずれは、経営のリスク
建築と運営が連携していないと、数年後に「使いにくい建物」「赤字が続く施設」になりかねません。
最初の事業計画のずれが、長年にわたる経営リスクへと発展するのです。

実際、日本の特養の4割が赤字とも言われており、その背景には「初期の運営計画の不備」が大きく影響していると考えられます。

今、必要なのは「理念→運営→建築」の順序
建築を始める前に必要なのは、「どんな理念で、どんな運営を行うか」という明確なビジョンです。
それを建築設計者に丁寧に伝え、一緒に建築計画を練ることが大切です。
そして完成した後も、毎年見直しを重ねながら、現場と計画のズレを修正していく。それが本来の「運営計画」であり、「経営の継続性」を支える柱となります。

施設づくりは、建てて終わりではありません。「誰のために、どんな未来を支えるか」という視点を持ち続けることで、介護の現場はもっと豊かに、もっと持続可能なものになっていくはずです。

↓↓↓詳細はPodcastから「ながら聴取」をしてください。

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